グローバル人材育成のために

文部科学省委託事業「日独青少年交流事業」

日独青少年交流事業は、日独両国政府主催で実施され、日独両国間の理解と親善を深め、青少年交流の発展を図ることを目的として、両国において関係機関・団体等での実地研修、意見交換を行う相互交流事業であり、日本では文部科学省の委託を受けて、独立行政法人国立青少年教育振興機構(NIYE)が実施しております。また、ドイツ連邦共和国では、ドイツ連邦家族・高齢者・女性・青少年省の委託を受けて、ドイツ連邦共和国国際ユースワーク専門機関(IJAB)およびベルリン日独センター(JDZB)が実施しております。
様々な対象に応じたコースがあり、「日独青少年指導者セミナー」は1971(昭和46)年から、また、「日独勤労青年交流事業」および「日独学生リーダー交流事業」は1997(平成9)年からそれぞれ実施されており、長年にわたって相互交流が行われています。

日独青少年指導者セミナー ※2023(令和5)年の内容を記載しています。
派遣プログラム
受入プログラム
日独勤労青年交流事業 ※2023(令和5)年の内容を記載しています。
派遣プログラム
受入プログラム
日独学生青年リーダー交流事業 ※2023(令和5)年の内容を記載しています。
派遣プログラム
受入プログラム

【プログラムの概要】(事業共通) ※2023(令和5)年の内容を記載しています。

(1)講義

テーマに精通した専門家による講義やワークショップを通じて、その現状や知見を深めます。

(2)テーマに関する施設の訪問

先進的な取り組みやモデル事業を視察するとともに、専門家と意見交換を行います。

(3)合宿セミナー

ド当該年度(または前年度)の両国団員とディスカッションを通して、活発な意見交換を行います。

(4)ホームステイ

相手国の日常生活や考え方を理解することを目的として、相手国の家庭に数日滞在します。

関係機関

Interview

人とつながって、ひろがって、これからも―――。

上杉 裕子(うえすぎ ゆうこ)さん
2017年の「日独青少年指導者セミナー」に参加。現在は大学教員。
*本インタビューは 2024 年 2 月に実施しました。

■チャレンジ精神でセミナー参加
私は、しばらく働いたあと23歳で大学に入学し、3年生のときにアメリカのアリゾナ州立大学に1年間交換留学しました。その後、大学院に入学して、33歳の時に博士号を取得しました。それから12年間、研究職に就くチャンスに恵まれず、高校の教員をしていました。
2017年に「日独青少年指導者セミナー」に参加しようと思った当時は、工業高等専門学校の准教授を務めていました。定員は8名ということで、狭き門とは思いましたが、持ち前のチャレンジ精神で、駄目もとでやってみようと応募したところ選ばれました。日本とドイツの異なる背景を持つ、さまざまな職種の先生方、指導者の方が、1つのテーマで交流し合うところが、とても魅力的でした。
このセミナーに参加した経験は、地元の中国新聞のコラムに書いたり、学会でも発表しました。今は大学で教えていますが、ほぼ全ての1年生に接するので、最初の自己紹介で、2017年のセミナー参加を学生に伝えて、自分の写真を見せるんです。このセミナーには学生版もあるので、ぜひ応募してみないかと勧めました。その中でやってみたいという学生には全員推薦状を書きました。
その学生たちが実際に研修を受けたあとで、テレビや新聞の取材も受けたらしく、大学のホームページにも報告内容が載っています。昨年行った学生は、ドイツに行ったあと、広島県が主催する事業にもチャレンジし、県知事に表彰されるなど、さらなる場面につながるご縁があったようです。このように私の1つの経験を、学生や他の先生方に伝えることができる点も魅力だと思います。

■テーマは「インクルーシブ教育」
ドイツでは、まずベルリンに行き、マインツ、ケルン、最後にボンに行きました。ベルリンでは、追悼の場がベルリン・フィルハーモニーの隣に設けられていて驚きました。虐殺された人が眠っている追悼の場を街の中心に置くことに、ベルリンの市民は誰も反対しなかったと聞きました。マインツでは、ホームステイも経験しました。2泊3日ほどお医者さんのご自宅に、家族の一員として温かく迎えていただきました。ケルンでは政府の高官へのプレゼンテーションがあったので、研修後はみんなで楽しく夕食をするだけでなく、その日の振り返りとか、最後の発表会に向けての準備があり、夜中の2時になることもありました。研修後やお昼ご飯などは、みんなで和気あいあいとドイツのおいしいものを食べたり、クリスマスマーケットに行ったり、コンサートに行ったりという楽しいことと、しっかり学ぶこととの両輪で充実した2週間を過ごすことができました。
思い出に残るプログラムはたくさんありますが、1つ選ぶとしたら、幼稚園を訪れたときのことです。障がいを持つ人に、あえて教室の中心に座ってもらい、周りを他の健常者の幼稚園児が囲むように席を設けてありました。障がいを持つ子どもをみんなで支え合うという雰囲気をもうつくっているんです。幼い頃から自然に、かつ当たり前に。障がい者と一緒に共生する社会を実体験する環境がつくられている。本当に感激といいますか、ドイツの進んだ「インクルーシブ教育」の一面を垣間見た気がしました。
ドイツの方が、かなり先に進んでいると思いました。でも、その背景にあるのは、負の歴史があったからだとも学びました。二度とヒトラーのような独裁者を生み出してはいけない。そのためには何が必要かというのが、今回のセミナーのテーマである「インクルーシブ教育」につながっていると考えます。
年齢、国籍、肌の色、障がいを持つ、持たない、能力がある、ない、を越えて、人として共生し合うのが「インクルーシブ教育」で、違いを認め合い、一人一人が個の大切さを尊重して、共に生きていこうという、垣根のないものです。

■セミナーの縁が続いていく
2023年には、日独青少年指導者セミナーの50周年記念式典にも参加しました。そのとき新たなドイツ団との交流があり、ドイツ団の団長から勧められて、「All Means All project(オール・ミンズ・オール・プロジェクト)」に応募しました。世界中から研究者や教育者を集めて、インクルーシブで、ジェンダーや国籍を越えたオープン・テキストブックを教師教育のために作る国際的プロジェクトです。
日本からは定員が2名ですが、2017年の2週間の経験を生かして、国際的なチームで貢献したいという思いから応募したところ、選ばれたのです。
2024年7月に1週間開催されますが、Erasmus+(エラスムス・プラス)の奨学金を得て、ドイツに派遣される予定です。2017年のセミナーへの参加から、ご縁がずっと続いて、今の私の中でも輝く重要な思い出となっていますし、これからの教育や研究にも生かされるという、明るい展望にもつながっています。
特に「All Means All project」につながっているところは、大きいと思うんです。「Erasmus+(エラスムス・プラス)」は、元はヨーロッパの研究者のための奨学金を、中国と日本とインドに広げるということで、3カ国2人ずつ、合計6名ほどメンバーを募る画期的な企画です。そして「All Means All project」自体が、世界中の先生、指導者とプロジェクトを一緒につくっていけるということで、楽しみでワクワクしています。
現在は、大学教員にキャリアが変わっていますが、それは2017年のセミナーの影響もあります。チャレンジに意味があることを身をもって感じたのです。
高等専門学校では准教授を約8年間勤め、2020年に新しい県立大学をつくるプロジェクト計画があり、準備センターで教員を募集していたので、自分の視野を広げたいと思って応募しました。2020年の4月から新大学の設置準備センターの教授として1年間勤め、新しい大学のカリキュラムをゼロからつくるワクワクの1年間を過ごし、2021年の開学からも、新しい英語集中プログラムの主任として、英語の先生たちのリーダーとして勤めています。
また、この日独青少年交流セミナーもコロナ禍で2年間オンライン行われており、私もそこに参加しました。ドイツの実際の風景をバーチャルで見せてくださったり、皆さんと活発な議論をしたりすることができたので、日本にいながらにして交流ができたことは、また違った実りがあったと感じました。

■参加を検討している方々へ
このセミナーは、私の中でもとても貴重な経験になったと思います。ドイツでの経験は、「インクルーシブ教育」だけでなく、国際交流や人間交流だと思っているので、国を越えた人と人とのつながりの大切さを感じました。これからも出会った人との交流を大切にして、ネットワークを広げ、研究者、教育者として、厚みのある視野の広い人間になっていきたいと思っています。
1つの職場にいたら、限られた世界になると思うんです。けれど、このセミナーに参加すると、異なる職業や経歴を持つ人が集まります。そういう人と交流することで、新たな視点を得ることができるし、一緒にドイツに行って指導者とも交流し、日本とドイツで本当に視野が広がると感じます。
自分の職場だけでは得られない視野を、研修を通して得ることができるので、ぜひチャレンジして欲しいです。チャレンジすれば、可能性が出てくるけれど、チャレンジしなかったら可能性ゼロ。まずは応募してみることをお薦めします。

学生で、社会人で――交流事業に2回参加!

泉川 大樹(いずみかわ ひろき)さん
2011年に「日独学生青年リーダー交流事業」、2023年に「日独勤労青年交流事業」に参加。現在はIT系企業でコンサルティング担当。
*本インタビューは 2024 年 2 月に実施しました。

■最初は、2011年の事業に参加
先輩からの紹介で「日独学生青年リーダー交流事業」を知り、応募しようと思ったのは、事業の内容が魅力的だったからです。現地での体験とか視察のみならず、ドイツ団とのディスカッション、日本団員との交流がしっかり組まれていて、ただ受け身で参加するのではなく、主体的にいろいろな経験を積めると考えたからです。
プログラムは大きく2本立て。まず、日本で合宿セミナーがあり、日本団員と、ドイツから団員が来ての3日間。そのあとに約2週間、ベルリンとドレスデンを訪問しました。参加人数は、日本団は18人でした。
団長の下で18人をまとめるリーダーとサブリーダーが置かれました。私はリーダーを担当し、いかに18人と2週間を有意義に過ごすかを考えました。具体的には、毎日、1日の研修が全て終わったら、30分から1時間の振り返りの時間をとって、その日に一番活躍された方は誰でどんな活躍だったのか、その日のエピソードでどれが自分の心に響いたか……といったコミュニケーションを全員でとるように心がけました。
非常に大変だったという思い出が残っています。サブリーダーと支え合いながら取り組みました。いろいろ意見を交わす中で、最初はどうしても本当のことを言えない方もいましたが、日が経つにつれて、みんな本当の自分をさらけ出して話すようになり、泣き出してしまう方もいましたが、共に乗り越え、すごく結束が深まった2週間だったと思います。
一番印象深かったことは、最終日に行った発表会。2週間の集大成として、最後に、ドイツで学んだことをまとめて発表することになりました。当初、リーダーは、選ばれた人がなるべきだとか、特別な才能が必要だとか思っていたメンバーもいたのですが、最終的に、リーダーは誰でもなるべきものだということで、自分のよさや持ち味を生かしたリーダーシップのとりかたが大事だというのを、団員全員で気づけて、理解し合えたことは非常によい経験だったと思います。
その後のキャリアを、今の仕事も含めて考えていくと、リーダーシップをとったりマネジメントをしたりする中で、それぞれの方の持ち味は何かというところをしっかり理解して、引き上げていったり、本人にその持ち味を気づいてもらうようなコミュニケーションをとるようになったかなと思います。決してリーダーは、選ばれた誰かしかなれないものではなく、それぞれの中にあるリーダーシップを持ち続けることが重要なのだということですね。

■10年後に、次の事業に参加
大学卒業後は、大学院に2年間行きまして、情報工学の研究をしてから、現在の会社に2015年に入社し、一貫してコンサルティングの仕事、特にITとかDXとかに関わる仕事をしてきました。
そして、2023年に「日独勤労青年交流事業」に参加しました。前の事業に参加してから約10年経ったタイミングでした。
2回目の参加に至った理由は大きく2つありまして、ひとつは、学生時代の経験が非常によかったこと。学生時代、現地に行って、実際に視察するだけじゃなく、ドイツ団としっかり議論をしながら考えていくところが面白かったというのが大きな理由です。2つ目は、自分自身キャリアを10年ぐらい積んで、リーダーシップをとったり、マネジメントをしたりするような機会が増える中で、一度、自分の知識や経験を棚卸しして、整理したかったというのが理由です。
プログラムは、学生リーダー交流の時と同じように、まずベルリンで1週間、そのあとエアフルトという地方での1週間という構成でした。
2回目のプログラムは、社会人経験を10年弱積んだ後ということで、訪問先も学生の時と違って、企業が増えていました。ですから、訪問先で実際のキャリアについて、例えばドイツの企業や団体の方と意見交換をしあいながら、どういったところが日本との違いかを掘り下げて話をしていくのは、非常に面白いと思いました。
もともとリーダーシップやマネジメントに学生時代から興味があって、そこにドイツでの経験を元に、いろんな知識とか経験を肉付けしていく形で、自分の基礎ができていったと思うところはあります。
2023年に参加した事業のテーマである、ワークライフバランス、キャリア形成、技能の継承という3つのうち、一番議論が盛り上がったのはワークライフバランスでした。参加した日本団員は7名ですが、それぞれ仕事が忙しくて、残業とか、休日も働かれている方もいたという背景もあって、ワークライフバランスの議論は、非常に盛り上がりました。
ワークライフバランスは、日本もドイツも制度としては整えられていることが、ドイツ団との話からもわかってきたのですけれど、決定的に違うのが、制度をいかにうまく使えているか、運用できているかというところでした。
ドイツ団の話を聞くと、かなり制度をうまく使いこなしながら、自分のワークライフバランスを保っているのに対して、日本では、なかなかそれができておらず、制度はあるもののうまく保てない、といった問題を抱えている方が非常に多いことに改めて気づきました。

■自社にドイツ団が訪問
実は、ドイツに行った後に、ドイツ団の方々が日本に来たのですが、その時に私の勤め先を訪問してもらいました。
そこでは、キャリア形成とか、ワークライフバランスを私の会社でどんなふうに取り組んでいるかをお話した後に、ドイツ団とのディスカッションをする約2時間のプログラムを組んでいただきました。
通訳も入るので、実質1時間ぐらいの内容ですが、私の会社がITの会社ですので、最先端の技術をどう使っていくかという議論になりました。

■ぜひ事業に参加して欲しい
国立青少年教育振興機構(以下、「機構」)は、いいプログラムをつくっておられると思っています。単に体験をさせたいといった機構側の思いだけではなくて、それぞれの参加者のことを非常によく思ってプログラムをつくっておられると考えています。
特にドイツの研修の中で感じたのは、機構のスタッフのサポートの厚さで、団員で過ごす中で、いろいろ悩みを抱えたり、相談したいことが起きることもありましたけれど、その時に団長と副団長を中心に、いろいろ相談に乗って、サポートいただけたところは心のよりどころになって、すごく安心して事業に参加できた理由にもなったと思っています。
主体的に、積極性をもって取り組もうという姿勢がある方ほど、この事業は実りあるものになります。現地で、どうやったらよりよい議論ができるかと日々考えながら、2週間の中で成長していくところが実際にあるので、非常に意味のある2週間になります。
また主体性をなかなか持てないような人も、この事業に参加して欲しいです。例えば一歩踏み出したいけれども踏み出せないというような方にとっても、非常にいいきっかけになります。最初のうちは気を使いあったりする機会も多いと思いますが、1日中行動を共にする中で、お互いの理解が進んで打ち解け、自分を出せるようになっていきます。
今まで気づかなかった自分の側面に気づいていくことが、学生の事業でも、勤労の事業にもあったので、そういった方が変われる、新しい自分に気づけるきっかけになると思っています。

その他の交流事業